「犬はつないで飼いましょう」について・・・
◆「犬はつないで飼いましょう」 皆さんも、こんな看板を見かけたことがあると思います。
多くが市町村などの自治体や、保健所などの「指導」として掲げられているものです。
・そして実際に、多くの犬がヒモで軒先につながれた形で飼育されているのを、よく目にします。
・しかし・・・我々犬の専門家から言わせていただくならば、「つなぎ飼い」というのは、およそ考えうる限りで最悪の飼育方法と断言できます。
・それは何故か?本来、理由はご説明するまでもなく分かっていただきたいのですが、その前に、最近いただいたお悩み相談をご紹介します。
◆ ご相談は、柴犬(メス 5歳)について、
「友人・知人・郵便屋さん、家を訪れる人全てを威嚇して吠え続け、近づく人には本気で噛み付く。いったん興奮状態になると見境がなく、止めに入った家族にも噛み付く」というものでした。
・お宅に様子を見に伺ったところ、その柴犬は、家の門と玄関の間に犬小屋を置き、犬小屋から伸びた1メートルくらいのヒモに繋がれていました。
・もちろん私を見るやいなや、歯をむき出してものすごい剣幕で吠えかかってきました。
・飼い主さんにはまず、「この飼育環境では、そのような問題が起きない方がおかしい」ことを伝え、家の真裏の庭にサークルを設けて、その中にヒモをつけることなく放してやるという方法をお奨めしました。
◆ 上にご紹介したようなケースが、「犬をつないで飼う」ことでよく起こる問題の一つです。
・つないで飼われている犬は、自分の行動範囲がヒモの長さに限定されている、つまり「逃げ場」がないことを理解しています。
・そのような環境におかれた犬は、徐々に未知の人・物に対する過剰な警戒心を抱くようになり、何か小さなきっかけ(子供にちょっかい出されたなど)を機に、一気に「先制攻撃(やられる前にやる)」のクセを身に付けてしまうことが多いのです。
・「家の敷地の最前線に、体を守る壁一つなく、逃げ場もない」状態で縛り付けられている犬の切迫した日常の心理は、想像するだに気の毒なものです。神経の細い子が多い柴犬なら、なおのことでしょう。
・事実、上のご相談の柴犬も、1才くらいまでは知らない人とも楽しく遊べる子だったのに、徐々に変わってきてしまった、ということでした。
◆ さらに「つなぎ飼い」の犬たちは、24時間365日、繋がれたヒモの圧力を首に受けています。
・犬の「しつけ」つまり犬との意思疎通には、リード(ヒモ)が必要不可欠です。
・ところが日常的に首にヒモの圧力を受けている犬たちは、飼い主さんの意図的なリードの操作に対して、非常に鈍感になってしまいます。
・その結果、例えば散歩では飼い主を引っぱりまわす、誰彼構わず吠えまくるといった問題行動を犬がとったときに、飼い主のリードによる制止に全く反応をしない、ということが起こりうるのです。
・端的に言えば、つなぎ飼いをすることで、人との意思疎通が非常にしにくい犬になる、
ということです。
・件の柴犬も例に漏れず、普段の散歩でも全くの唯我独尊状態とのこと。まして興奮している状態では、飼い主の制止などお構いなし、誰だろうと噛み付いてやる、という非常に好ましくない心理状態になっていることが想像できます。
◆ 「うちもつないで飼ってるけど、別に人に噛み付いたりしないよ」という方もいるでしょう。無論、気質の安定した犬であれば、目に見える問題行動に発展しない場合もあると思います。
しかし、それならいい、という訳にはいきません。それは症状に現れていないだけ。つなぎ飼いされている犬たちが上記のようなストレスを受けている事実に間違いはありません。
◆ 先日、県内の街道沿いで、二頭の雑種犬が、1メートルに満たない一本のヒモで軒先につないであるのを目撃しました。
・ヒモは先端の数十センチで二手に分けられ、それぞれの犬の首輪に結ばれていました。
・犬たちは、お互いの動きが邪魔で、自分の首を足でかくことも満足にできず、物憂げな表情で通りを眺めていました。足元では犬たちの排泄物が踏み潰され、ヒモにもこびりついていました。
・これを虐待といわずして、何というのでしょうか。これを、「犬をつないで飼いましょう」という指導に基づいた正しい飼い方だと、誰が認めるでしょうか。
◆ 行政の掲げる「犬は繋いで飼いましょう」という看板は、「飼い主の責任として、犬を正しく管理しましょう」という広い意味の指導だと信じたいものです。
もしそうでなく、犬に対する前近代的な先入観から「本気で」つなぎ飼いを推奨しているとしたら、日本の行政は、なんと犬に対する理解と愛情のないことでしょうか。